第6章 二次元スピンエコー法

二次元グラジエントエコー法の次に,基本となるパルスシーケンスは二次元スピンエコー法である.二次元スピンエコー法の典型的なパルスシーケンスをFig.6-1に示し,そのソースコードをFig.6-2に示す.

Fig.6-1. 二次元スピンエコー法のシーケンスチャート(TE=18ms)

このように,グラジエントエコー法とスピンエコー法の違いは,(1)スピンエコー法では,リフォーカスパルスを必要とし,スピンエコー条件が成立する時刻を中心として,データ収集を行う,(2)スピンエコー法では,通常,位相エンコードのリワインドは行わない,という点である.

以下,シーケンスチャート(Fig.6-1)とソースコード(Fig.6-2)に従って説明する.

まず,二次元スピンエコー法では,90°パルスでスライス面の励起を行う.グラジエントエコー法の場合には,任意のフリップ角のRFパルスを使用するが,二次元スピンエコー法では,特別な場合以外は,90°パルスを使用する.そして,励起した面の核磁化のリフォーカスに使用するリフォーカスグラジエントも,グラジエントエコー法と同様に加える.

90°パルス(excitation pulse)のピークの時刻から,エコータイムの半分の時間(TE/2)でピークとなるように,180°パルス(refocusing pulse)を加える.このように二つのRFパルスを加えることにより,さらにTE/2だけ後の時刻で,スピンエコーが発生し,その間の静磁場不均一性による核磁化の位相分散は,収束(リフォーカス)される.なお,90°パルスと180°パルスの位相差は,いわゆるCPMG条件を満たすように,90°ずらした方が望ましいので,Fig.6-2でも,そのように設定している.特に,マルチエコーの場合は,この設定は,本質的に重要である.

なお,180°パルスの前後には,スライス用グラジエントを強めに加えて,180°パルスからのFID信号を抑制する必要がある.これは,厳密な180°条件は,スライスの中心面だけで成立しており,それ以外の面では,フリップ角は180°より小さいため,FIDが発生するためである.このグラジエントを,クラッシャーグラジエントと呼んでいる.クラッシャーとは,壊す,という意味で,マルチエコーの場合には,この強度を調整する必要があることが知られている.

正しいスピンエコー画像を撮像するためには,スピンエコーが発生する時刻と,グラジエントエコーのピークの時刻を一致させる必要がある.これがずれた場合,画像内には,静磁場不均一性に伴う核磁化の位相分散が発生する.

そこで,リードアウトグラジエントは,180°パルスの前後に,Fig.6-1に示すように加える.すなわち,read prephasing gradientの囲む面積と,180°パルス後のreadout gradientの囲む面積が,同一になったときに,いわゆるグラジエントエコーが発生するので,その時刻を,スピンエコーが発生する時刻と一致させている.そして,リードアウトグラジエントは,データ収集が終わった後も,画素内で核磁化が1回転するように,さらに,データ収集時間の半分の時間だけ継続させている.

位相エンコードグラジエントは,180°パルスの印加が終わった直後に加えても良いが,パルスシーケンスの記述上,リフォーカスグラジエントの終了後に加えている.そして,シングルエコーのスピンエコー法では,位相エンコードのリワインドは行わない.ただし,マルチプルスピンエコー法や,同じ技術を使用する高速スピンエコー法では,位相エンコードのリワインドを実施する.

以下,パルスシーケンスの詳細に関して,Fig.6-2の示すソースコードを用いて説明する.

Fig.6-2. 二次元スピンエコー法のパルスシーケンスのソースコード

Fig.6-2のソースコードでは,21行22行で,RFパルスのフリップ角を定義している.32行は,90°励起のためのBlock()である.37行は,スライスのリフォーカスのためのグラジエント印加と,read prephasingのためのリードアウトグラジエント印加のためのBlock()である.43行は,リフォーカスグラジエントのためのBlock()である.RFパルスの位相は,励起のRFパルスに対し,π/2だけ進めている.50行は,位相エンコード,リードアウト,データ収集のためのBlock()である.この中では,データ収集の開始時刻の前に,位相エンコードが終了する必要がある.

Main()では,上に定義したBlock()を,PE1をループパラメタとしてNPE1回(256回)ループさせている.このとき,リフォーカスパルスの前に,TE/2 - 0.25 * sinc_pulse_width - gz_rise_timeという時刻まで待つ,という関数を入れて,励起パルスと収束パルスの間の時間差をTE/2としている.

収束パルスとデータ収集間の時間調整は,Block('Refocus')の終了時刻である,TE/2+1.25 * sinc_pulse_width + 3.0 * gz_rise_timeと,Block(’PE+RD’)内での時刻設定により行っている.そして,TEの最小値は位相エンコードのグラジエントの印加終了時刻よりもデータ収集開始時刻が大きくなるという条件で決定されている.

このシーケンスを使用して,Bloch simulationを行った画像を,Fig.6-3に示す.左は,TR=600ms,TE=20msのT1強調画像,真ん中は,TR=4000ms,TE=80msのT2強調画像,右は,TR=4000ms,TE=80msのプロトン密度強調画像である.

Fig.6-3. T1 weighted image, T2 weighted image, and Proton density weighted image