第12章 二次元高速スピンエコー法
Fig.2-1に示したように,スピンエコー法には,1回のTRで1個のスピンエコーを取得する手法と,複数(多数)のスピンエコーを取得する手法がある.そして,その複数のスピンエコーを,異なるk空間の信号とすることにより,高速にスピンエコー画像を取得する手法が,高速スピンエコー(Fast Spin Echo: FSE)法である.この手法は,RARE法やturbo SE法などとも呼ばれている.
FSEは,第11章で述べたマルチプルスピンエコー法が基礎となっている.すなわち,マルチプルスピンエコー法の各エコーに,Fig.12-1に示すような位相エンコードを行うことにより,エコー数倍の高速化を達成している.なお,ここでは,エコー数は16,位相エンコード数は256としているが,他のエコー数の場合でも原理は同様である.
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プロトン密度強調高速スピンエコー法(PDW-FSE)では,第一エコーから後ろのエコーにかけて,k空間の中心から外側に向かって位相エンコードを行っている.このとき,実効エコー時間(Effective echo time,TEeff)は,第一エコーのエコー時間となる.Fig.12-2にシーケンスチャートを示し,Fig.12-3にソースコードを示す.
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PDW-FSEのパルスシーケンスのソースコードは,マルチプルスピンエコーのソースコードにおいて,エコーエンコードステップiと,エコー数jを使って,encode_number(i, j) = i – 8 – 8 * j (-1) ** (i // 8)という関数を定義し,位相エンコードを行っている.
T2強調高速スピンエコー法(T2W-FSE)では,k空間の端から中央を通って,もう一つの端に向かって,位相エンコードを行う.そして,k空間の原点を通るときのエコー時間が,実効エコー時間となる.Fig.12-4に,シーケンスチャートを示す.
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位相エンコードは,PDW-FSEと同じく,encode_number(i, j) = i + 16 * j -128という関数を定義して行っている.
T1強調高速スピンエコー法(T1W-FSE)は,エコー時間が長いエコー信号を排除するため,エコー時間の短いエコーだけで画像を取得するような工夫がなされる.すなわち,Fig.12-1に示すように,4番目のエコーまでを使用して位相エンコードを行い,TRを600ms程度と短くしている.Fig.12-5にシーケンスチャートを示す.
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また,位相エンコードは,encode_number(i, j) = i – 32 – 32 * j * (-1) * (i // 32)という関数を定義して行っている.
Fig.12-6に,同一のTRとTE(TEeff)を有するconventional SEとFSEを用いたプロトン密度強調画像のBloch simulationによる画像を示す.このように,ほぼ同一のコントラストを有する画像を取得することができる.ただし,FSEでは,T2 blurの影響で頭皮の部分の解像度が低下していることが分かる.
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Fig.12-7に,同一のTRとTE(TEeff)を有するconventional SEとFSEを用いたT2強調画像のBloch simulationによる画像を示す.このように,ほぼ同一のコントラストを有する画像を取得することができる.T2が短い部分は描出されていないため,T2 blurの影響はほとんど見られない.
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Fig.12-8に,同一のTRとTE(TEeff)を有するconventional SEとFSEを用いたT1強調画像のBloch simulationによる画像を示す.このように,ほぼ同一のコントラストを有する画像を取得することができる.
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最後に,FSEのシーケンスを活用して得られる,FLAIR(Fluid attenuated inversion recovery)法のシーケンスチャートと,ソースコードをFig.12-9とFig.12-10に示す.このように,最初にinversion pulseを加え,脳脊髄液の縦磁化がゼロになった時刻で,T2強調高速スピンエコー法で撮像を行う.
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Fig.12-11に,FLAIR法とT2W-FSEでBloch simulationを行った頭部画像を示す.このように,脳脊髄液の信号は,消失しているが,白質と灰白質の画像コントラストは,FLAIRの方が,T2W-FSEよりも劣っている.ただし,FLAIRは,CSFの信号にマスクされない病変の検出が目的であるため,このコントラスト変化は問題にはならない.
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