第13章 二次元マルチスライス・マルチエコー法

次の章で述べる,二次元マルチスライス高速スピンエコー法の基礎となる手法は,二次元マルチスライス・マルチエコー法である.この手法では,すべてのスライスのすべてのエコーに対して,スピンエコー画像を作成する.

Fig.13-1に,オフセット周波数が,2.5kHzのときの二次元マルチスライス・マルチエコー法のシーケンスを示す.このシーケンスの非常に重要なポイントは,リフォーカスRFパルスのキャリア周波数が,コヒーレント(位相連続)でなければならないことである.

というのは,正確なマルチエコーの発生条件は,いわゆるCPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)条件であり,このとき,リフォーカスパルスは,核磁化の方向(最初の励起パルスとは垂直な方向)に,常に一定の位相で加えなければならないからである.

Fig.13-1. 二次元マルチスライスマルチエコー法のシーケンスチャート

MRIの実機でもそうであるが,MRI simulatorでもRFパルスの制御は,オフセット周波数がゼロの,いわゆる受信(回転)座標系に固定して行われるため,送信パルスのコヒーレンスを確保するためには,パルスシーケンスとRFパルスに対して,特別な工夫(条件)が必要となる.

すなわち,任意の時間間隔のRFパルスが,受信系を基準にして,同じオフセット周波数で加えられたとしても,これらの送信RFパルスは,コヒーレントであるとは限らない

よって,たとえば,Fig.13-2に示すように,二つのRFパルスをコヒーレントにするためには,そのキャリア周波数は,そのパルス間隔の逆数で決まる周波数の整数倍でなければならない.言い換えると,二つのRFパルス間に,キャリア周波数の波が,整数個含まれていれば,これらのRFパルスはコヒーレントとなる.

Fig.13-2. 拡大したパルスシーケンスチャート

さらに,CPMG条件を成立させるためにはリフォーカスパルスと核磁化の方向を同じ方向にする必要がある.オフセット周波数がゼロの時は,回転座標系において,励起パルスをx’方向に加え,リフォーカスパルスをy’方向に加えれば良いが,オフセットパルスの周波数がゼロでないときは,周波数に応じた位相の制御が必要となる.

これは,複数の周波数におけるBloch simulationにより求めることができる.Fig.13-1におけるパルスシーケンスでは,オフセット周波数 f kHzに対する位相シフトは,10.0×0.0755×πラジアンであった.

これにより,マルチスライス・マルチエコーのパルスシーケンスのソースコードは,Fig.13-3のようになる.スライスのギャップは0 mm,スライス1枚あたりの周波数は,1.25kHzとしている.そして,位相シフトは,phase_correction(i)という関数(32行)で補正を行っている.

Fig.13-3. 二次元マルチスライスマルチエコーのパルスシーケンスのソースコード(TE=10ms)

このソースコードを用いて,マルチスライス・マルチエコー法を実施するとき,CPMG条件を満たすためには,送信周波数は,100Hzの整数倍でなければならないが,その条件から外れた場合には,どのような画像が得られるのであろうか?

その疑問に答えるために,送信周波数を,1.25 kHz1.275 kHz1.3 kHzと変化させて,マルチスライス・マルチエコー画像をBloch simulationによって求めてみた.数値ファントムは,xy面内で画像中心に置いた,直径32画素の円柱状ファントムで,T1 = 1000 msT2 = 80 msで一定とした.

Fig.13-3からFig.13-5に示すグラフは,24枚のスライスの各エコーによる画像(合計384枚)画素強度の変化である.このように,マルチスライスの送信周波数のステップ周波数の変化に対して,ほとんど画素強度は変化しないという結果が得られた.

Fig.13-4. 送信周波数の変化が1.25kHzステップであるときのマルチスライス・マルチエコー画像の画素強度の変化

Fig.13-5. 送信周波数変化のステップが1.275kHzのときのマルチスライス・マルチエコー画像の画素強度の変化

Fig.13-6. 送信周波数変化のステップが1.3 kHzであるときのマルチスライス・マルチエコー画像の画素強度の変化

Fig.13-6からFig.13-8に示すグラフは,24枚のスライスの各エコーの画像の位相の変化である.このように,画素強度はほとんど変化しないのに対し,位相は大きく変化する.そして,CPMG条件が成立する1.3 kHzステップの送信周波数変化においては,各エコーの位相が,安定していることが分かる.

Fig.13-7. 送信周波数変化のステップが1.25kHzであるときの画像の位相変化(送信位相はインコヒーレント)

Fig.13-8. 送信周波数変化のステップが1.275kHzであるときの画像の位相の変化(送信位相はインコヒーレント)

Fig.13-8. 送信周波数変化のステップが1.3kHzであるときの画像の位相の変化(送信位相はコヒーレント)

Fig.13-9Fig.13-10に,スライス厚を1.2 kHz(5mm)とし,周波数変化のステップを1.2 kHzとしたときの,頭部ファントムを用いたマルチスライス・マルチエコー画像の第1エコー画像(TE = 10ms,プロトン密度強調画像)と,第9エコー画像(TE = 90 ms,T2強調画像)を示す.このように,同時に,多数のエコータイムを有するエコー画像を取得することができる.

Fig.13-9. マルチスライス・マルチエコー法による第1エコーの画像(プロトン密度強調画像)

Fig.13-10. マルチスライス・マルチエコー法による第9エコーの画像(T2強調画像)

結論マルチスライス・マルチエコーシーケンスにおいて,リフォーカスパルス(180°でなくても良い)は,「原則」,コヒーレントになるように加える必要がある.このためには,送信のオフセット周波数(受信周波数との差)は,リフォーカスパルスの時間間隔の逆数で決まる周波数(例えば,10msのときには100Hz)の整数倍である必要がある.この条件の下に,CPMG条件が成り立つための励起パルス(90°)の位相差をBloch simulationで求める.上記のパルスシーケンスでは,100Hzの変化に対し,位相の変化は約13.6°(0.0755πラジアン)であった(シーケンスの条件によって異なる可能性がある).

ところが,送信のオフセット周波数が,上に示した周波数の整数倍でないとき(リフォーカスパルスがコヒーレントでない場合)でも,エコー信号強度(画素強度)には,ほとんど変化はみられず画像(信号)の位相にその変化は大きく表れる.これは,リフォーカスパルス前後のクラッシャーパルスの影響で,核磁化は,スライス厚方向に沿って約2回転画素内においては,ちょうど1回転しているためである(後者はBloch simulationの結果には影響しないが,前者の影響は大きい).すなわち,核磁化とリフォーカスパルスが平行(CPMG条件)でなくとも,画素内で核磁化の位相が広く分散しているためリフォーカスの効果が達成されることが,このような結果が得られる理由である.