第5章 シーケンスの基本:二次元グラジエントエコー法

すべてのパルスシーケンスの基本要素は,二次元グラジエントエコー法にある.

二次元グラジエントエコー法は,MRIの基礎を完成させたスピンワープ法を洗練したものであり,Fig.5-1に示すように,スライス選択位相エンコード信号リードアウト位相リワインドから形成される.

Fig.5-1. グラジエントエコー法のパルスシーケンス(詳細版)

スライス選択は,スライス面に垂直な方向のグラジエント(Gz)を印加し,その状態で,RFパルスを加える.RFパルスには,通常,hamming windowを重畳したsinc関数パルスを使用する.エコータイムを短縮したい場合には,特別なSLR(Shinnar Le Roux)パルスが使われる.

RF波形は,number of lobesという数で,その波形が選択できる.この数を増やすことで,スライスの選択性(形状)を改良できるが,RFパワーが増大するため,SARとの兼ね合いで決定する.通常は,35を使用する.ここで使用しているパルスでは,3である.

スライス選択では,グラジエントパルスとRFパルスの終了時点では,核磁化が回転座標系内で,スライス面に垂直な方向に沿って,位相がばらばらになって,MR信号としては,小さな信号しか観測することができないため,Fig.5-1に示すように,グラジエントを反転して,しばらく印加する.この反転パルスの印加時間は,おおよそRFパルスの半分の時間が良いとされている(スライス方向の核磁化のリフォーカス).

上記のように励起されたスライス面の信号(横磁化)を,リードアウト方向と,それに垂直な,位相エンコード方向に分解するために,リードアウトグラジエントと,位相エンコードグラジエントを印加する.

リードアウトグラジエントは,一度,マイナスの方向に加えて(Prephasing),その後,反転することにより,グラジエントエコーを発生し,これにより,k空間の正負の両側の信号を一度に収集することを可能としている.

また,位相エンコードグラジエントは,エコー信号の収集前に,ステップ毎に,繰り返し加えることにより,位相エンコード方向の位置情報をエコー信号に与える.

スライス方向のリフォーカスリードアウトグラジエントのPrephasing,そして位相エンコードは,各位置の核磁化に対し,それぞれ独立して位相を加えるため,別々に加えても,また同時に加えても,最終的な位相は同一になる.よって,エコータイム(核磁化を励起してからエコーのピークまでの時間:TE)を短縮する目的のためには,同時に加えることが望ましい.よって,Fig.5-1のように,これらは,同時に加えられている.

Fig.5-1に示したシーケンスを,TRという繰り返し時間で繰り返し,その度毎に,位相エンコードグラジエントの強度を一定間隔で増加させてデータ収集を行い,二次元のk空間データを収集する.そして,このデータを二次元FFTすることにより,MR画像を求めることができる.

さて,ここで,グラジエントエコー法には不可欠な,RF spoilingの方法を説明する.ソースコードをFig.5-2に示し,全シーケンスのチャートを,Fig.5-3に示す.

グラジエンエコー法を用いて,T1強調画像を取得する場合には,TR,TEを短くし,またRFパルスのフリップ角を大きめ(概ね45°以上)にして,撮像する必要がある.ところが,この場合,連続するRFパルスによって,スピンエコーstimulated echo,そしてさらに高次のhigher order echoが発生して,T2が長い核磁化ほど大きな信号強度を発生することになる.

T1とT2は,多くの生体組織では正の相関も持つため,このままでは,T1の長い組織の核磁化の信号を抑制するT1強調画像を取得することは,難しくなる.そこで,繰り返すTR間で,横磁化がリフォーカスしてエコーを発生しないように,RFパルスの位相を制御することが行われている.これがRF spoilingである.RF spoilingの一番代表的な手法は,連続するRFパルスの間で,RFパルスの順番nに対して,nΦとなるような位相を加えていくことである.

すなわち,n番目のRFパルスの位相を,n(n+1)Φ/2となるように設定する.ここで,Φは,横磁化のコヒーレンスが(最も?)少なくなる117°がよいとされている.下に示す,グラジエントエコー法のパルスシーケンスでは,29行目に,RFパルスを求めるための,phase_shift_angle(i)という関数が定義されており,ラジアンで計算された値が求められるようになっている.

そして,38行目RF()パルス関数では,その位相が,位相エンコードの順番NPE1に応じて変化するように設定されている.そして,52行目のデータ収集のAD()関数では,直前のRFパルスと同じ位相の核磁化成分を検出するように設定されている.すなわち,RFパルス間で,さまざまなエコーが発生しているが,必ず,直前のRFパルスと同じ位相の信号成分を計測することにより,他のエコー成分は,打ち消されることが期待されている.

このように,RF spoilingは,完全に横磁化のコヒーレンスを切断するものではないが,疑似的に,それを行うことにより,T1強調画像の取得を可能としている.

Fig.5-2. RF spoilingを導入したグラジエントエコー法
Fig.5-3. TR=30ms, TE=8msのRF spoiled gradient echo法の全シーケンスチャート

Fig.5-4に,RF spoilingがないときと,あるときに,Bloch simulationで求めた,axialグラジエントエコー画像を示す.4枚の画像は,それぞれ,絶対値画像位相画像実数部画像虚数部画像(ただし画素値は負)を示す.TR=18ms,TE=6ms,FA=60°,dwell time=10μsとして,SequenceGeneratorで生成したシーケンスで撮像した.このように,RF spoilingがないときは,画像コントラストは,ほとんどみられないが,RF spoilingを行うことにより,T1強調画像を取得することができる.

Fig.5-5に,RF spoilingがないときと,あるときに,Bloch simulationで求めた,coronalグラジエントエコー画像を示す.画像の表示方法およびシーケンスパラメタは,axialの場合と同様である.また,Fig.5-6に,同様に求めた,sagittalグラジエントエコー画像を示す.これらのパルスシーケンスは,いずれも,SequenceGeneratorを用いて作成したものである.

Fig.5-4. RF spoilingの有無有りによるグラジエントエコーaxial画像.TR=18ms,TE=6ms,FA=60°

Fig.5-5. RF spoilingの有無(左が無し,右が有り)によるグラジエントエコーcoronal画像.TR=18ms,TE=6ms,FA=60°

Fig.5-6. RF spoilingの有無(左が無し,右が有り)によるグラジエントエコーsagittal画像.TR=18ms,TE=6ms,FA=60°

最後に,グラジエントエコーのピークが,グラジエントのタイミングのずれなどによってシフトしたときに,画像に現れる影響を示す.Fig.5-7に示すのは,グラジエントエコーのピークが,データ収集ウィンドウの中心から,50μs,100μsずれたときの画像を示す.このように,エコーシフトの影響は,絶対値(強度)画像には現れないが,位相画像に現れる.また,ここでのBloch simulationには,不均一静磁場の影響は考慮していないが,それが存在する場合,その影響が,主に位相画像に現れる

Fig.5-7. エコーピーク時刻のシフトによる効果